背景 ブータンはGNH(Gross National Happiness: 国民総幸福)を開発理念とし、全国土における公平・平等な近代化を目指しています。しかし、近年の開発により都市部と農村部の間で物質・経済的、さらに精神的な隔たりも顕在化してきており、日本と同様に農村部から都市部への人口流出が大きな問題となっています。いくつかのコミュニティでは、若年層の流出に伴う急速な高齢化(65歳以上の人口比率が総人口の7%以上)に直面しており、特に本事業対象地域の タシガン県バルツァム郡を含むブータン東部の農村(図1)
近年では特に地域の将来を担うはずの若年層の人口が急速に減少し、空き家の増加、離農と労働力不足による耕作放棄地の拡大、高齢化に対する医療福祉の整備の遅れなどの問題が生じています。これまで政府は、農村部からの人口流出の緩和に向け、車道などのインフラの整備や、農業・畜産資材の無償配布による生産基盤の安定化と近代化、また、ローンを扱う金融機関の整備など物質・経済を中心とした施策に取り組んできました。しかし、現在までに人口流出の緩和や地域の活性化につながるような成果はなく、新たなアプローチの方法とそれを発案・実践できる人材の育成が必要とされているのです。 課題2:地域の保健医療体制の向上 課題3:地域資源(文化・自然)の保全と活用 フレームワークと実施体制 ブータンでは、学生や若手研究者の農村問題への関心は高いとは言えません。地域づくりの人材育成を推進していくには、まず「農村問題を自分の問題として自覚する」ことが重要となります。これまで京都大学とシェラブツェ校が実施してきた日本とブータンの農村でのPRA(参加型農村開発手法)、PLA(参加型学習と行動)を用いたフィールドワークやスタディ・ツアーは、農村問題への理解を促してきました。また、日本の自然や文化などの地域資源を活用した地域づくりの取り組みは、ブータンの農村問題の解決やGNHの実践として重要な参考例になるとブータンの参加者からも高く評価されています。これらのことから、GNH-CECスタッフらによるPRA、PLAプログラムの実施は、農村問題に対する自覚を促すとともに地域づくりの視点やノウハウを学ぶために有効なアプローチであると考えられます。そのため本事業では、まずPRAやPLAの実践を経験してもらうことに重きを置き、その上で、現地での地域づくり実践プログラムに参加してもらうことにしています。 本事業では、京都大学東南アジア地域研究研究所内に「JICA草の根事業室」を設け、運営拠点とします。運営スタッフはプロジェクトマネージャーを中心として、これまで協働で地域の過疎や高齢化、離農問題に取り組んできた宮津市、美山町、守山市、土佐町の市民団体などとの協力のもと、ブータン人材育成のための視察・研修プログラムを実施していきます。 ブータン側では、ブータン王立大学シェラブツェ校をカウンターパート(C/P)とし、タシガン県保健局、BHU(Basic Health Unit=保健所)、県役所、RNR(Renewable Natural Resources=県農業普及局)の協力を得ます。シェラブツェ校GNH-CECの人材育成プログラムを支援するために「JICA草の根現地事業室」を同センターにも設置します。事業室ではGNH-CECの既存スタッフの他、プロジェクトにより雇用された現地人スタッフ、農業開発専門の長期滞在日本人専門員、そして短・中期滞在専門家が人材育成機能の強化・定着に向けて活動します。さらに、協力機関との連携により、GNG-CEC、バルツァム郡の役所、BHU、ORC(Outreach Clinic=出張診療所)、RNRのメンバーからなる調整協議会を組織し、社会連携による地域づくりと人材育成を実践・推進していきます。これらのフレームワークと組織体制をまとめると下図のようになります
本事業の活動計画は以下の通りですが、状況次第では変更せざるを得ない場合もありうることをご理解ください。 1年目(2022年度):本事業の実施基盤整備 ・ 次年度の実施に向けたPRA、PLAプログラム、地域づくり実践計画の作成支援 ・ 調整協議会の設置、および以降の定期的な会合の実施支援 ・ リーダー育成のための日本での視察・研修プログラムの実施 参加者:調整協議会のコアメンバー計10名(シェラブツェ校:5名、県・郡保健局:2名、郡農業普及局:1名、郡農業グループ:1名、郡役所スタッフ(郡長):1名) ・ 野菜市場調査の開始(雇用現地人スタッフにより実施) ・ 野菜栽培品種・モデルファーマー(MF)の選定とMFによる予備的デモンストレーション栽培の開始 ・ 基礎医療器具調達、県保健局と次年度のトレーニングプログラム作成 ・ VHWに対する課題アンケートの実施(雇用現地人スタッフにより実施) ・ 民俗資料館、散策道整備に関する地域住民との調整支援 ・ 次年度計画検証の為の住民参加型ワークショップの実施支援 2年目(2023年度):PRA、PLAプログラム、地域づくり計画の実践 ・ GNH-CECによる現地でのPRA、PLAプログラムの実施支援 ・ MFによるデモンストレーション栽培の開始及び普及体制・機能の確認 ・ 野菜栽培普及の為のワークショップ及び普及計画の作成支援 ・ VHWに対する課題アンケート調査の実施支援(PRA、PLAプログラムの一環として実施) ・ VHWに対するトレーニングプログラムの実施、およびBHU、ORCへの基礎医療器具の設置 ・ 地域住民の健康状態調査(PRA,PLAプログラムの一環として実施) ・ GNH-CECと郡保健局との協働による高齢者に対する健診活動のサポート(問診補助等)の実施支援(PRA,PLAプログラムの一環として実施) ・ 聞き取り調査やGPSを用いた地域の文化・自然マップの作成(PRA,PLAプログラムの一環として実施) ・ 地域の民具収集と展示(一部PRA,PLAプログラムの一環として実施) ・ 学生と地域住民の協働によるエコ・ツアープログラムの作成支援 ・ 大学生の企画によるブータン・スタディ・ツアー(試験的エコ・ツアー体験を含む)の実施(2年度目以降、年1回実施) ・ 住民参加型の事業中間報告ワークショップの実施支援 3年目(2024年度):PRA、PLAプログラム、地域づくり計画の実践 ・ GNH-CECによる現地でのPRA,PLAプログラムの実施支援 ・ 前年度に作成した野菜普及計画の実施 ・ GNH-CECと関連機関との協働による健康増進に関する啓蒙活動支援 ・ ウォーキングマップの作成および、散策道の整備支援(一部PRA,PLAプログラムの一環として実施) ・ 地域の民具収集と展示(一部PRA,PLAプログラムの一環として実施) 4年目(2025年度、+2026年~8月): ・ これまでに実施されたPRA、PLAプログラム、野菜栽培普及プログラム、保健医療プログラム、文化・教育・観光プログラムを統合し、本事業での経験や地域のさらなる課題の設定を踏まえたGNH-CECによる中期(3年)人材育成プログラムの作成支援 ・ 本事業を統括した最終事業報告書の作成 ・ 事業最終報告、今後の活動計画発表のための住民参加型ワークショップを開催 |