研究の目的
日本の在地(農山村)では、過疎・農業離れ・栽培放棄地・気象災害・地域健康医療水準の低下などの問題が深刻化しています。これらの問題は近年、熱帯アジア諸国の在地においても顕在化し、「グローバル問題群」となりつつあります。本研究では、バングラデシュ・ブータン・ミャンマー・ラオス・インドと日本の農村に焦点を当て、これらの問題の実態を明らかにするとともに、その解決を目指します。そしてその過程において、本研究では、グローバル問題群の具体的解決方法を国際協働で模索できるように、「地域研究」を「実践応用学」へと進化させることを目的としていきます。
対象地域と課題
本研究が対象とするのは、自然立地条件に強く影響を受けて歴史的に形成されてきた村落社会で、図1に示しています。Ⅰの地域は、サイクロンや洪水が多発する人口過密な平坦地農業地帯です。Ⅱの地域は、過疎化が顕著な過疎卓越地・中山間農業地帯です。グローバル問題の現象の共通性の背景には、それを生み出す背景として地域の固有性があります。その多様性を考えるために、Ⅰの地域から6村、Ⅱの地域から4村を選定しました。これらの村々に対して、私たちがグローバル問題群と考える過疎・離農とそれに関連する課題
(1)気象災害と災害教育
(2)過疎問題とその発生メカニズム
(3)農業離れと農業的土地利用や技術的問題
(4)地域健康医療制度と高齢者問題
(5)農業技術や環境保全に関する問題
の実態解明とその対策について検討していきます。
特に日本国内の3村は国内外の参加者の共同調査地として、過疎・離農問題の解決の糸口を実践的に 模索する現場と位置づけます。そこではグローバル問題として認識される一般的特徴に加え、地域ごとに異なる個別的背景・特徴も明らかにされます。そして、問題解決への取り組みであるアクション・リサーチ(プログラム)を実践していきます。私たちは、この「調査から実践に至る」プロセスを、相互啓発的国際協同モデルとして提示していきたいと思っています。
学術的な特色と意義
従来の地域研究では、研究者が一方的に海外の国や地域に関与して理解・分析を行う、いわば問題説明型の研究手法がとられてきました。けれども人々の暮らしや社会の問題を科学的に分析し、論理的に説明できたとしても、それが問題の解決に結びつかなければ意味があるとは言えません。本研究では、研究者が国内外の在地の人々と双方向的な関係を築く中で、自らに当事者性を帯びさせつつ、問題解決を図る実践型の地域研究を目指しています。
そのために、日本の問題もグローバル問題群の一つと位置づけ、日本人研究者の当事者的意識を高めます。日本人研究者自身が当事者として問題に向き合い、問題の解決こそが研究の最終目標であると自覚することこそが、外国からの参加者にも相互啓発的な刺激を与え、各地の事情に合ったアクション・プログラムの作成につながるのです。本研究の学術的な独創性は、この点に集約されると言ってよいでしょう。
研究計画・方法
研究組織 アジアの農山村における過疎・離農問題をグローバル問題群と位置づけ、かつ、地域に適応した解決方導くためには、問題を多面的に捉える専門性と、地域の日常実践に精通した経験知が不可欠です。本研究では、調査地域で実地調査経験を持つ内外の研究者とNPO/ NGOの実務家がチームを組んで取り組む体制が確立されています(図2)。その上で、1年目には各調査地で、PLA(参加型学習と行動)と呼ばれる手法を用いてローカルな問題群を明らかにします。そして2年目にはワークショップを開催し、各ローカル問題群のグローバル問題群としての特質を検討します。そしてそこから問題解決の糸口を探るためのフィールド調査を行って、3年目と4年目のワークショップで具体的な解決策を策定していきます。
メ ンバーの役割と課題 グローバル問題群の分析に地域研究が必要とされるのは、地域の問題特性を明らかにすることこ そが解決への基本であるからです。そのために本研究では、専門分野を横断的に柔軟に理解できる「専門問題班」と、現地の言語と社会習慣に精通した「在地問題班」との融合研究を目指しています。私たちは、このような姿勢でグローバル問題群の特性を考慮することで、在地の住民参加による実践投入が初めて可能となると考えているのです。
プロジェクトの人員構成は、国内研究者18名、海外研究者12名をはじめとして、国内研究協力者・プロジェクト研究員・プロジェクト事務補佐員からなり、事務局は京都大学東南アジア研究所実践型地域研究推進室に設置しています。各参加者の専門分野と研究課題については表1にまとめました。また、各メンバーの研究とプロジェクトの進捗状況は、随時、本ホームページでお知らせしていくことにしています。